日誌

2018年11月の記事一覧

待ってました


 給食の配膳車を押して、職員室前を悠然と歩む老人がいました。長いひげに、黄色い和帽子、そして袴、よく見ればご老公様ではありませんか。今年の福岡っ子発表会、あすなろ学級の出し物は、木原和子脚本「水戸黄門」だそうです。ご老公様は、このあとすぐの体育館練習に備え先に衣装を着替え、格さんと助さんをしたがえ、食器の片づけに向かう道中だったのです。

 さっそく私もその姿に誘われて体育館を覗いてみますと、舞台には、ご老公一行、村人、盗人に扮したあすなろ学級の子どもたちが元気いっぱい演技をしていました。

この水戸黄門のドラマは、私が幼いころから放映されており、何代か主演男優がかわりながら平成時代まで続いています。クライマックスの時間帯になると、「控えおろう、……この紋どころが目に入らぬか」とかざした印籠に、これまで躍動感にあふれた空気が一転静まり、おきまりのBGMとともに、ひれ伏す悪者たちの光景が印象的です。待ってました!と言わんばかりに、心がスカッとしたことを覚えています。私たちは、この瞬間をいつも待っていたのでした。

 福岡っ子発表会に向けて、今練習の佳境を迎えています。各学年、黄門様のような主役は、一握りの子かもしれませんが、すべての子ども一人一人にストーリーがあり、クライマックスがあります。子どもたちは、自分の出番に備えて、台詞を心の中で何度も復唱し、そして、きたるべきそのとき、動きや表情を添えて力いっぱい表現するのです。保護者の皆様は、印籠をかかげるような思いで語る、我が子の出番に、ひれ伏す必要はありませんが、拍手や笑い、涙を届けていただけるとありがたいと思います。         

声を出して失敗を取り返す


 
 サッカーの決勝トーナメントが東田小学校で開かれた。本校は幸小と対戦。幸小は、テクニック、キック力に優れ、何度も福岡のゴールを脅かした。本校の子どもたちは、ボールに喰らいつき、全員でゴールを死守し、そこから全員で懸命に走った。結局、0対1で敗れたが、ナイスゲームであった。

 前々日の金曜日は、最後の練習だった。西日を浴びながら、広いグランドを駆けまわる選手たちがいた。最後だから自分の目に収めようと外に出ると、「こんにちは」と大きな挨拶が聞こえた。この日は、ゲーム形式の練習だった。時間短縮のために、コート外に出てしまったボールは追うことをせず、ストックしてあるボールを次々とコート内に蹴りこみ、途切れることのない練習を続けた。挨拶のお礼でもないが、コートの外に点々と転がるボールを拾い集めることにした。幼い頃、こうして夢中になって球拾いして、サッカーが楽しくて楽しくて仕方がないことを思い出していた。そんなときコートの中から「声を出して 失敗を取り返せ!!」と大きな声が響いた。ミスした子へのチームメイトの呼びかけである。失敗はだれにでもある。コミュニケーションを取り合って、ピンチを乗り越えようという意味なのだろう。その声に反応したのか、一声返して走り出した子どもがいた。勢いのある練習風景だった。

 決勝トーナメント、相手の巧みなプレーと強力な守りに、確かにミスはあった。しかし、声を出して合って、カバーする姿は、一昨日の練習そのままであった。

 「声を出して失敗を取り返せ。」子どもだけでなく、私たち大人が、人と関わって生きていく上で通じるこの精神は、私がグランドで拾った珠玉の言葉である。