日誌

待ってました


 給食の配膳車を押して、職員室前を悠然と歩む老人がいました。長いひげに、黄色い和帽子、そして袴、よく見ればご老公様ではありませんか。今年の福岡っ子発表会、あすなろ学級の出し物は、木原和子脚本「水戸黄門」だそうです。ご老公様は、このあとすぐの体育館練習に備え先に衣装を着替え、格さんと助さんをしたがえ、食器の片づけに向かう道中だったのです。

 さっそく私もその姿に誘われて体育館を覗いてみますと、舞台には、ご老公一行、村人、盗人に扮したあすなろ学級の子どもたちが元気いっぱい演技をしていました。

この水戸黄門のドラマは、私が幼いころから放映されており、何代か主演男優がかわりながら平成時代まで続いています。クライマックスの時間帯になると、「控えおろう、……この紋どころが目に入らぬか」とかざした印籠に、これまで躍動感にあふれた空気が一転静まり、おきまりのBGMとともに、ひれ伏す悪者たちの光景が印象的です。待ってました!と言わんばかりに、心がスカッとしたことを覚えています。私たちは、この瞬間をいつも待っていたのでした。

 福岡っ子発表会に向けて、今練習の佳境を迎えています。各学年、黄門様のような主役は、一握りの子かもしれませんが、すべての子ども一人一人にストーリーがあり、クライマックスがあります。子どもたちは、自分の出番に備えて、台詞を心の中で何度も復唱し、そして、きたるべきそのとき、動きや表情を添えて力いっぱい表現するのです。保護者の皆様は、印籠をかかげるような思いで語る、我が子の出番に、ひれ伏す必要はありませんが、拍手や笑い、涙を届けていただけるとありがたいと思います。