日誌

2019年6月の記事一覧

とっておきの場所

 

 「あの遊具は、うちのおやじが作ったんだ」と校区の方が教えてくれました。あの遊具とは、本校の校庭にある、鉄の棒がずらりと並んだ上り棒です。当時、体力づくりの一環で、学校から要請があり、請け負って作られたと聞きました。「学校に自分の作品が、こうして未だに残っているなんて、すごいですね」と私が言うと、「そうそう、おやじにとっては、とっておきの場所」と答えてくださいました。

「とっておきの場所」と言えば、先日、かわいいお客さんが多数、校長室に来室されました。校長室にあふれんばかりのお客さんたちは、はじめて入室したその部屋を珍しそうにぐるりと見渡します。すると、何かひらめいたように、いきなりカーペットに着座して、鉛筆を走らせ始めました。1年生の学校探検。けっこう長時間、無心にスケッチを描き続けました。そして用事がすみ退室するときには、「ありがとうございました。失礼しました。」の声。行儀のよい来訪者のスケッチは、1年生昇降口に展示されました。果たしてお気に入りの場所になったでしょうか。

 一方、6年生の掲示板に行くと、想い出の場所の水彩画がありました。1年生と違い、彼らの絵には、5年間余りの学校生活という経験が上積みされ、思い入れがあります。「友と楽しく遊んだ」「部活動でがんばった」「1年生のお世話した」と いつも何気なく眺めているところも、想い出のフィルターを通すと、そこに頑張った自分がいることがわかります。6年生のみなさん、想い出を紡ぐのは、まだまだこれからです。

 さて、学校開放日、ご来校ありがとうございました。悪天候でしたが、親子下校いかがでしたか。我が子と傘を寄せ合いながら曲がったあの角も、今朝は女子中学生の待ち合わせ場所でした。通学路にもとっておきの場所があるのでしょう。家路へと急ぐ道すがら、想い出をたぐり寄せると、大切な場所が見つかるかもしれません。

各駅停車

 

 「ぶらり途中下車の旅」という番組ではありませんが、校長室から各教室へ、途中下車するように歩くことが日課になっています。

ある教室は、「算数の友」を各自取り組んでいました。課題が黒板に記され、できあがるとそれを先生に見せにいきます。「できたあ」の声とともに、先を争うように、先生のところに駆けこむ子たちがいます。できた喜びをいち早く先生に伝えたい、それが子ども心でしょう。が、私が注目した子は違いました。静かに席を立つと、床に落ちている鉛筆をおもむろに拾い持ち主に届け、解き方に困っている子には、小声でアドバイスするなど、なんともゆったりした歩調です。結局、彼は、最後尾に平然と並びました。「ゆっくり」も悪くないなあと思い、教室を出ました。

また、ある教室では、話し合いの授業が行われていました。活発な意見交流です。発言内容に耳を澄ますと、「○○君につけたしで……」「○○さんと少し違って……」と、仲間に敬意を表すように、発言の枕詞に友達の名前をつけていました。黒板にはたくさんの子の名前のプレートが並びました。先生が考えた授業の道すじに、おのおのの子が考えを上書きしていく授業。「どっちがいいんだ?」の先生の質問に、結論を急ぐのではなく、ああでもない、こうでもないと各駅停車しながら、進んでいました。そして、最後は「どちらも悪くない。大事なことは、歩みたい人生を自分で判断することです」と大人顔負けの人生観ともいうべき意見に、授業の終末がきゅっと締まりました。

 図書館に行くと、1年生とあすなろ学級の子が本を選んで読んでいました。1年生は、お気に入りの本を私に見せてくれました。あすなろのひとりは、テーブルで電車図鑑を熱心にみています。「電車がすきなの?」と聞くと「うん、好き」と答え、東海道線のページをみせてくれました。そこには、各駅停車の電車が並んでいました。各駅停車もなかなかいいものです。