日誌

2019年7月の記事一覧

対岸の声

 5年3組のおたより「コスモス」に「珠美の人生日記」のコーナーがあります。岩瀬先生が、日々子どもたちとのかかわりの中で、さまざまな思いが綴られています。私もひとりの読者として、毎週楽しみにしています。

 その中に、A子さんのことが書かれていました。彼女は、泳ぎが得意ではないらしく「水泳特訓をしています。」とありました。そして、人生日記は続きます。「人に頼らずひたすら頑張って泳ぐ彼女を見ていたら、先生も何か挑戦できるものを見つけたいと思いました。」と…。岩瀬先生は、A子さんの泳ぐ姿に、勇気や元気をもらったようでした。

 岩瀬先生のこの気持ちは、私にもわかります。それは、朝の登校風景でした。私が本校に赴任したころは、子どもたちと出会っても、恥ずかしさが先だって、下を向いて歩いていってしまう子が多くいました。しかし、先日のことです。国道259号線の歩道に立っていると、「おはようございます」という元気な声が聞こえてくるではありませんか。声の方に目を向けてみますと、行き交うたくさんの車の間から、子どもたちのたくさんの笑顔がのぞいていました。この通学班の子たちは、反対側の歩道にいる私を見つけて、声をかけてくれたのでした。車の騒音を越えて届けてくれた元気いっぱいの贈り物に、私も岩瀬先生と同じように、今日頑張ろうという元気や勇気をいただいたのでした。

 いよいよ夏休みを迎えます。全校朝会でも話したように、子どもたちは、本当によく頑張ったと思います。が、忘れてはならないのは、頑張った自分のすぐ近くには、A子さんやあの通学班の子たちのような勇気や元気を与えてくれる存在がいたのではないでしょうか。

 交通事故、不審者、熱中症、異常気象と、子どもの取り巻く環境は必ずしも万全とは言えません。友達や先生とのつながりを忘れず、安全に元気いっぱいの夏休みを過ごしてほしいと願っています。     

逆境をくぐる


 校長室で仕事をしていると、胡蝶蘭の花がぽとりと床に落ちました。2年前に本校に赴任したお祝いにいただいた花で、あれから株分けをしただけなのに、今年もそれぞれの鉢に美しい花を咲かせてくれました。ゴールデンウィークから開花していましたので、2か月も咲いてくれていたことになります。

 その胡蝶蘭のことですが、知人からこんなことを聞きました。蘭は気持ちのよいときに花は咲かない。これ以上追い込むと枯れるかなというくらいのとき、立派な花を咲かせる。思えば、来客や出張、事務仕事に追われ、うっかり水や肥料を与えることを忘れてばかり。この放任という逆境が、この花たちを咲かせるエネルギーを生んだのだと思いました。

 花と言えば、1年生の教室前では、アサガオが満開です。疲れた表情で登校した子どもたちも、アサガオを目にすると、小走りに駆けよっていく姿を見かけます。「願いがかなった」という子どもの声にあるように、大輪の花には、水や肥料だけでなく、ことばや思いという愛情がいっぱい注がれています。ただ、アサガオが開花する条件に目を向ければ、夜という真っ暗な闇が不可欠だそうです。アサガオの凛とした美しさは、ひっそりと孤独の夜をくぐった自信の表れかもしれません。

 さて、陸上大会。子どもたちは、大健闘でした。私の心をとらえたのは、結果を出せなかった子どもの涙です。ゴール直前で転倒し、結果を出せなかった。リレーでバトンを受けたのに追い抜かれ、順位を守れなかった。陸上大会は、歓喜や感動とともに、たくさんの「もう一息」があり、挫折や失望も連れてきます。あなたの悔し涙は、胡蝶蘭やアサガオが花をつけるためにそうであるように、次の飛躍のためのつらい時間ではなかったでしょうか。

 スタンドの控え席に戻ったあなたは、仲間からの「よくがんばった」という労いのシャワーを浴びました。大丈夫、逆境をくぐった人は強くなります。