豊橋・学校いのちの日

「職員室での校長講話」

10年前の今日、6月18日は、本校行事として三ケ日青年の家で実施していた野外教育活動の2日目でした。当時、1年生でありました、西野花菜さんを乗せたボートが転覆し、花菜さんは帰らぬ人となりました。わたしたちの章南中は、ご両親からお預かりした大切な命を守ることができず、元気な姿でご両親にお返しすることができませんでした。

 花菜さんの、将来は医者になりたいと夢見る、希望に満ちた将来を奪ってしまいました。花菜さんは、もし、事故がなければ、今年、23歳になっていたはずです。医者を目指すのであれば大学5年生、実践的な勉強に励んでいたことでしょう。かわいく、眼の中に入れても痛くない一人娘である花菜さんの成長を楽しみにしていたご両親の深い悲しみと絶望を思うと、言葉もありません。

 

  ここで、西野花菜さんに、黙祷を捧げたいと思います。みなさん、ご起立ください。

 ~黙祷~              やめ、 ご着席ください。

 

 花菜さんのご両親の時間は、今も止まったままです。どんなに時間が経過しても、そのつらさは、癒えることはありません。むしろ、10年という長い時間、ご両親は苦しみ続けてきているとも言えます。この事故は、解決するということはないのです。10年という数字は節目でもなんでもなく、この日の意味は、9年目であった昨年も、11年目である来年も、何も変わることはありません。

この豊橋・学校いのちの日は、第一義的に、わたしたち教員が、決してこの事故のことを忘れないためのものです。もし、わたしたちがこの事故のことを忘れるということがあるのならば、それは、花菜さんの存在がなかったことになってしまいます。10年間受け継いできた私たちの安全に対する意識をいかにつないでいくかを、先生方も考えてほしいと思います。

 

 ここに浜名湖のボート転覆事故を教訓とするための、事故を決して風化させないためのパネルがあります。日頃は校長室に掲示してあります。その中央の黄色の部分に、「職員誓いのことば」があります。その下には、「章南中の教職員はこうありたい」と私たちのもつべき覚悟を記した文書があります。

 皆さんは、日頃から生徒の安全管理については、必要十分な意識をもち活動をしていただいているとは思いますが、本日、その思いを一層強固なものにするために、そのまま全文を読み上げます。

 職員誓いのことば

 平成22618日、静岡県浜名湖において、西野花菜さんの尊いいのちを事故によって奪ってしまいました。私たちは、そのときの花菜さんの恐怖・苦しみ・辛さ・無念さを思うにつけ、その悲しみの大きさに胸が張り裂ける思いです。

 花菜さんは、いつも笑顔を絶やさず、常に周りの様子を気にかけて誰にでもやさしく声をかけることができる子でした。しかし、今はもう花菜さんの姿はありません。あの日、笑顔で花菜さんを送り出したご両親には、ただただお詫び申し上げるばかりです。

 また、この事故によって、子どもたちや保護者、地域の方々等多くの人々の心に傷を負わせてしまい、誠に申し訳なく思います。

 この事故で、私たち職員は、改めて子ども一人一人のいのちの尊さが心に刻み込まれ、教育活動において、いのちを守ることの使命感や責任感の大きさを新たにしております。私たちは、この事故をけっして風化させることなく、あらゆる教育活動において、いのちを第一に考え、安全を常に確保し、安心して教育活動が展開されるよう努めてまいります。そして、無念な思いで天国にいった花菜さんの夢や願いの灯を子どもたちとともにいつまでも灯しつづけ、彼らの成長の礎になっていくよう、取り組んでまいりたいと思います。

 

 「章南中の教職員はこうありたい」

〇野外活動中の事故で、保護者からお預かりした大切な生徒の命を救うことができなかったという反省をもとにして。→〇すべての教育活動において、生徒の命を最優先に考え、安全の確保を全職員が心を一つにして努めていく。

〇不幸な事故を二度と起こさない。安全・安心な学校づくりをするためのリーダー校となるために。→〇校外学習における安全マニュアルを作成し、順守するだけでなく、もしもの場合、自ら判断・行動する力を身に付ける。

〇悲しい事故のことを決して忘れず、これから先も風化させることがないようにするために。→事故を通して得た教訓を、安全な学校づくりのために生かし、豊橋のみならず近隣の市町、ひいては全国に向けて発信する。    以上です。

 これまで本校では「安全、安心のできる学校づくり」を第1の目標として取り組んでまいりました。子供たちにも、常に「命の大切さ」を話してまいりました。事故を風化させず、章南中が学校安全のリーダー校となるように努力していきたいと思っています。そして、いつかみなさんが異動をして他の学校でリーダーとなることで、豊橋市全体に高い意識と万全の体制が広がっていくことを願っています。

 

 この後、放送になってしまいますが、生徒たちにも同様にお話をさせていただきます。そして、いのちを考える道徳の授業、バルーンリリース、午後からは、花菜さんの同級生による生徒向けの講演と、花菜さんのお父さんによる教職員向けの研修を実施します。子どもの命を守る私たち教職員の覚悟と、学校安全体制を築くために行います。

 今回、同級生の方の話をうかがうということを、ご両親は喜んでくださいました。しかし、大人になっていく同級生を目にすることには、複雑な思いもおもちのはずです。しかし、今回そうしようと私が思ったのは、先生方には、本来は同じように成長しているはずの花菜さんの命が奪われてしまったのだということを強く認識してほしかったこともあります。また、ご両親は事故の再発防止を願い、お父さんは教員研修の講師を務められたり、新たなしくみをつくる活動をされたりしています。しかし、本当は、花菜さんを元気な姿で返してほしいに決まっています。それはかなわないので、せめて事故の教訓を無駄にしないでほしいとおっしゃって活動されるその心情は察するにあまりあることと思います。

 

 今日は、1日、あらためて命の大切さを、生徒と共に考えて行く日にしたいと思います。先生方、どうぞよろしくお願いいたします。