日誌

鈴の鳴る道


  「おはようございます」 黄色いランドセルカバーの女の子と挨拶を交わしました。ランドセルは重そうですが、上級生のお姉さんの右手をしっかり握りしめて歩む姿は、入学当時に比べると、格段にたくましくなりました。

 朝の陽ざしが道路にさしこみ、子どもたちの影が通学班の後を追いかけるように続いています。なんとも気持ちのよい朝です。ただ今朝の心地よさは、挨拶や笑顔の明るさだけではありません。彼女のランドセルにくくり付けられている鈴が奏でる音が、彼女が歩くたび、チリンチリンと、BGMのように聞こえるのです。ああ、あの鈴の音に、我が子に対する、親御さんの安全や幸せの祈りがこめられているんだなあと思うと、なんともいえぬ気持ちになりました。

 坂を上っていく彼女の後ろ姿を見送っていました。ふと思い出したのは、星野富弘氏の「鈴の鳴る道」というお話です。若き日大けがを負い車いす生活を余儀なくされた作者にとって、道路の段差やでこぼこ道、カーブは、その振動によって苦痛を味わう、避けて通りたい道だったそうです。しかし、その振動によって、ぶらさがっている鈴が得も言われぬ音色を奏でるではありませんか。彼は、逆境を乗り越えると、必ずよいこともあると、鈴から学び、でこぼこもなるべく迂回せずに進もうと決意するのです。

 黄色いランドセルの後ろ姿は、ずいぶん遠くなりました。これから彼女の人生にも、困難や試練が待っていることでしょう。でも、あの足取りの力強さに、彼女は、心の鈴を鳴らしながら成長していくと思わずにはいられませんでした。